【講演レポート】日本が世界で選ばれる理由と、伝統素材が持つ未来

― 株式会社MIZEN 代表・寺西俊輔氏 講義より ―
先日開催したセミナーにて、株式会社MIZEN 代表 寺西俊輔氏
(https://mizenproject.co.jp/about/)を講師にお迎えし、
「日本の技術と伝統素材が、世界でどのように評価されているのか」
「ファッションと着物の本質的な違いとは何か」
について、ご自身の経験に基づく貴重なお話を伺いました。
以下、その内容を要点とともにご紹介します。
1. 日本人が世界で“選ばれる”理由とは
寺西氏がヨーロッパで転職活動を行っていた際、
「日本人である」という理由だけで採用が進む場面が何度もあったといいます。
実際、エルメスの現役ディレクターであるナレッジ氏も日本に深い関心を持ち、
それが採用のきっかけとなりました。
世界には「日本」や「日本人」への強い信頼と期待がある。
寺西氏はそのことを身をもって実感したと語ります。
2. 運命を変えた、伝統素材との出会い(2016年)
2016年、世界最大級の生地展示会「プルミエール・ヴィジョン」を訪れた寺西氏は、
二つの素材と出会い、人生が大きく動き始めます。
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牛首紬(今回の講演で着用していたジャケットの素材)
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貝殻を織り込んだ「羅甸織」の帯地
この二つの織元との出会いが、日本の伝統素材を深く知るきっかけとなり、
ここから独立への道が開いていったと語りました。
3. 日本が世界から評価される本質 ―“技術”への圧倒的信頼
海外では、Made in Japan に対して揺るぎない信頼があります。
-
壊れない、品質が高い
-
仕事を正確にやり遂げる
-
約束を守り、再現性が高い
これらはすべて、“日本の技術力”に対する期待の裏返し。
寺西氏は「日本人が選ばれる最大の理由は、技術と仕事の質に対する信頼だ」と強調します。
4. ファッションと着物 ―文化の構造がまったく違う
寺西氏は ファッションと着物の本質的な違い を3つの視点で解説しました。
(1)デザイナーと職人の立ち位置の違い
ファッション
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デザイナーが主役
-
パターン・縫製・刺繍は“黒子”
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階級社会の名残がある
着物
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“デザイナー”という概念がほぼなく、全員が職人
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絵師・染め・織り…職種に上下がないフラットな関係
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「職人同士の協働」で成り立つ文化
(2)分業意識の違い
ヨーロッパ
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契約外の仕事は原則やらない
-
役割の線引きが明確でドライ
日本
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困っていたら助ける文化
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部署や職種の壁が薄く、全体を支える意識が強い
(3)時間軸の違い
ファッション
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春夏秋冬のシーズン制
-
スピードと再現性が重視される
-
テキスタイルは“スタート地点”
着物
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形がほぼ変わらない
-
“反物を織った時点でほぼ完成”という世界
-
だからこそ膨大な手間をテキスタイルに注げる
5. ラグジュアリーの成り立ちの違い
ファッションのラグジュアリー
-
もとは貴族が楽しむ文化
-
近代に大衆化したが、階級文化の名残がある
着物のラグジュアリー
-
権威ではなく「手仕事の価値」で成立
-
“文化的ラグジュアリー”という独自の位置づけ
着物の価値は、ブランドではなく 技術そのもの に宿る。
これは世界でも希少な形のラグジュアリーであると寺西氏は語りました。
まとめ
寺西俊輔氏の講演は、
日本の技術が持つ本当の価値とは何か
伝統素材が世界で戦える理由はどこにあるのか
を再認識させてくれる内容でした。
伝統と現代、職人文化と世界基準の両方を見てきた寺西氏だからこそ語れる、
深い示唆に満ちた講義となりました。
まとめ
寺西俊輔氏の講演は、
日本の技術が持つ本当の価値とは何か、
伝統素材が世界で戦える理由はどこにあるのか を再認識させてくれるものでした。
特に「技術への信頼」「職人文化のフラットさ」「反物が完成形であるという独自性」は、
私が推進している hu-bi(上州アップサイクルプロジェクト) にとっても重要な示唆となりました。
hu-biでは、群馬の眠る伝統素材や技術を“再編集”し、
次世代に届く新しい文脈としてアップサイクルすることを目指しています。
寺西氏の「伝統素材は世界で勝てる」という確信に満ちた言葉は、
まさに hu-bi が取り組む方向性を後押ししてくれるものであり、
今後のプロジェクトの進め方にも大きなヒントを得ることができました。
今後も当プロジェクトでは、
日本・群馬が持つ伝統素材や技術の価値を未来につなぐ取り組みを継続し、
学びの場づくりを進めていきます。
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